01.10
Sat
今年最初のノートです。今年もよろしくお願い申し上げます。
年賀状やお手紙を送ってくださった方、受け取りました、ありがとうございます!

さて、
>>>>去年の記事でも触れましたが

大正4年(1915年)1月9日、白秋が前橋の朔太郎を訪ねて一週間滞在しました。
150110.png

上記記事で引用している続きの部分です。

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その前橋では一夜牡丹雪が降つた。
さうして赤城をはじめ妙義、浅間、榛名、相馬の連山が雪で真白くなつた。
山は皆鋭角をなしてゐる。その中に白い浅間の天辺から白い煙が麗らかにのぼる。
空をゆく雲は正覚坊となり卵を落す。何ともいへない眺めである。
それが忘れられないで、東京へ帰つてから、前橋の「侏儒」の人たちに
絵を描いて送つた、而して私自身には麗空といふ詩を作つた。

ーー「地上巡礼 編輯室夜話」『白秋全集 37』岩波書店、1988
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ここにある、そのときに作られた麗空という詩を紹介します。

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麗らかな、麗らかな、
何とも彼ともいへぬほど麗らかな、
実に実に麗らかな。
瑠璃晴天の空の上。

はるかの下界に雪の連峰。
山はみな鋭角、
白い波を打ち、ますます高く、
真白に光る、その間から
ひとすぢ煙を吐く山もあり。
その煙までが音たてず。

麗らかな、麗らかな、
何ともかともいへぬ麗らかな、
雲がふはりと空に居る。
実に実にうららかな。
見れば見る程うららかな。

正覚坊が空に居る。
大きな大きなその亀が、
麗らかに匍うてゆくのが眼に眩し。
雪の山をのぼり越して
照り光るまんまるい日輪光にさしかかる、
ゆつたりと正覚坊。

麗らかな、麗らかな、
何ともかともいへぬほど、麗らかな、
実に実に麗らかな、
るりいろの虚空から、その亀が
ぽたりぽつたり卵を落し、
何処へゆくのかもわからず、
また乗り越してゆく日輪を。

泣くに泣かれぬ天景に
正覚坊はいつまでも、いつまでも、
まるい卵をぽたりぽつたり。
日輪は金になつたり、白くなり。

麗らかな、麗らかな、
何ともかともいへぬ麗らかな、
実に実にうららかな、
昼の幽霊、正覚坊の尻の穴。


ーー麗日異抄「麗空」『第二白金之独楽』(『白秋全集 3』岩波書店、1985)
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