10.28
Tue
今日は『定本室生犀星全詩集』全3巻 冬樹社、1978から紹介します。

現在本編では、犀は昔の恋人と同じ名前のハルコという少女と一緒にいます。
犀星は大正初期、春子という女性と恋愛関係にありました。
遅れて艶という女性とも関係を持っていました。
以前番外編で朔太郎の書簡を紹介しましたが
そこにもOYEN、OHARUとして名前が出てきます。
(この艶は当時女詩人おゑんとして、犀星が手を入れた詩を発表しています)

大正3年の犀星が春子に捧げた詩を紹介します。
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  愛人野菊に贈る詩

愛人にして、
わが愛心を極むるの野菊よ
君の友はことごとく嫁ぎ
君のみ居残る。
あまりに臆病に
あまりにおとなしく
あまりに可哀く
あまりに子供らしき春子よ
君の今あるは群衆の中
土くさき田舎青年は
君の処女期を盗まんとして言ひ寄る。
ねがはく蹴散らせ。
われを守り
われを愛愛し
われを祈り
われにより深酷の幸福を得よ。
われは市井無頼の子なれど
君の無知と聡明と
肥えたる肉体を知り
すべての縁談を断はりて孤独なる君を知る。
郷国夜半
君とともに怖るる君とともに歩めるとき
君は世間を怖れ
人を恐れ
語らんとすれば帰らんと言ひ
帰へらんとして猶ほ躊躇たる春子よ。
わが腕にもたれつつ
なほキス懼れ
くちくせに死ぬるといへる野菊よ。
思へよ
いま君は十九の秋に入り
心神かたみに熟れ
肩は圓く
          、、、、
ここちよく腰部はこれぐんないなり。
抱擁愛々日もただならざる時なり。
しかれども春子よ
われは君の処女期を破り
肌を荒らし
脣を吸ふの清浄の子なるべきかを思ふ。
また神のごとき心霊を衝き破り
君を汚し果つべきかを思ふ。
われは放埒無頼。
肉体腐乱。
はる子よ
ただ聞け
われは真念一つなり、
感謝しつつ
威嚇しつつ
君の足を大拝し
あるひは侮辱し
頬と頬とを合掌す。
光威
刹那にあらば君はいちはやく生め。
愛々うつつとなり
人と魚との半ばに位ゐす
真念凝気の煙を生め。
まことに昨日
叫びて抱き
股を割り
股を割りつつ生み落としたるは純白の犬。
純白の魚。
天にはづることなく
天に捧ぐるのわれの愛児なり。
郷国新秋の午前
われら手を交しつつ祈る
われらの親善と交誼との永遠に亘り
世上あらゆる迫害冷笑の来らんこと。
はる子よ
はる子よ
君はその母のために勤め
勤めつつ若くして疲れ
ひたひ青ざめし室生犀星の愛人よ。
われは君のために盗み
君のために殺し
君のためにピストルを懐中す。
君のかたへに寄るもの
犬のごとく群るるもの
やがて我ピストルをして舞はしめんのみ。
はる子よ
又の名の野菊よ
ああ世界の群衆より選択したるの春子よ。
われは君の情夫として
われはまことに君に足る。
君にして万一に叛き
万一にして去らば
たちまちにして銃殺す。
愛は国家を超え
天を超え
狂気を超え
君に早や喰ひ入る。
はるこよ。
はるこよ。

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朔太郎は「愛の詩集の終りに」(室生犀星『愛の詩集』跋文)で次のように述べています。

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 その頃此の国の詩壇は傷ましくも荒みきつて居た。新らしいものは未だ生れず、
古いものは枯燥しきつて居た。
 室生と私とはここに一つの盟約を立てた。我等はすべての因襲から脱却すること。
我等は過去の詩形を破壊すること。我等は二身一体となりて新らしい詩の創造に尽力する
こと及びその他である。
 その頃、室生の創造した新らしい詩が、どんなに深く私を感動せしめたことであらう。
私は日夜に彼の詩篇を愛吟して手ばなすこともできなかつた。
実際、当時の彼の詩は、青春の感情の奔縦を極めたものであつた。
 燃えあがるやうなさかんな熱情。野獣のやうな病熱さをもつた少年の日の情慾。
及びその色情狂的情調。何ものにも捉はれない野蛮人めいた狂暴無智の感情の大浪と、
そのうねりくねる所の狂的なリズム。此等すべて彼の創造した新らしい芸術は、
一一に私を驚かし、私の心にさわやかな幸福と、未だかつて知らなかつた
新世界の景物を展開してくれた。
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この、犀星の初期詩の野蛮な面は
『抒情小曲集』ではあまり感じられないかもしれません。
しかし上記の「愛人野菊に贈る詩」のように、
雑誌に発表したものの詩集に収録しなかった作品はかなりワイルドです。
機会がありましたら、『室生犀星全詩集』で触れてみてください。
朔太郎初期詩編に大きな影響を与えていることもよくわかると思います。
同じく春子に捧げられた、「電線渡り」というワイルドすぎてここに載せられない作品もあります…
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以下、大正四年一月の、これまたワイルドな詩も紹介します。

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  サタン

私は悪魔
私は現はれ
けむりて消ゆる
おまへの身のまはりを
私はたえず形となり
影となり
おまへの住宅の床下に
地下室
地下電線
二階へは縄梯子
おまへの秘密な裸体をも見た
おまへの卓上に深夜手紙を置き
おまへの真蒼にせんりつするを見た
手紙はサタンの祈り
おまへはいかに凶悪なるものに思はれ
身動きならず泣くを見た
おまへの住宅と器物とに
     、、、
私の神経はえれきになつてゐる
おまへの拒絶の眼を向くるところは
、、、、
ぴすとるの口
サタンの接吻
サタンの強制
私はあらゆる犯罪を背負ひ
智識を錬磨し
畫はチグリスズムの稿を急ぎ
   、、、、、、
変相のあらびやごむを練る
眼は義眼
靴の底にも火薬
悪魔なみだを知らず
悪魔なみだを知らず。

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『定本室生犀星全詩集』第一巻 冬樹社、1978
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