05.25
Sun
編集部宛に届いた、直筆のお手紙を受け取りました、お寄せ下さった方々、ありがとうございます!
ぬほおお嬉しいです…資料を送って下さったかたまで…忝いです!
年賀状をくださった方にも…遅くなってしまってすみません。
お返事致しますので、恐縮ですが、もうしばらくお待ち下さいませ!

今の時代だからこそお手紙って…本当にありがたく嬉しいです。


話は変わりまして9話について。

朔の心理描写は作品理解の補助として
『月に吠える』成立前の朔太郎の精神状態を表すノートや書簡が
ベースになっていると以前書いたと思います。
あくまでベースで、後の時代の心境もまぎれこんでくるので厄介ですけれども。

今回「淋病」が出てきますが…
これは、大正三年の朔太郎が「肉交をしていないのに淋病に罹った」という体験が
草木姦淫罪という…妄想?いや朔太郎にとっては実感?に繋がり
『月に吠える』浄罪詩篇へと繋がっていったという流れがあります。
これについてはまたいずれ説明させていただきます。

ベランダのあたりの場面。
くだくだと書くのもあれですから
資料だけ載せておきます

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大正三年十月二十四日(推定)北原白秋宛書簡『萩原朔太郎全集 第十三巻』

(前略)

十八日、晴明のヹランダ、安楽椅子のうへ、紅い毛布の夢みる感触、
なにか哀しく私は泣いた、双手で顔を蓋つて居たけれども涙はとゞめなく
頬に流れた、烈しい憤怒ののちのものまにや性の哀傷、くるめく
奔狂の恋魚は胸いつぱいに泳ぎまはつた、光る天景、
うらうらとはれわたつた小春日の日光、みどりの松の葉、
どういふわけか室生君が恋しくてたまらなくなつた、
遠くの空で彼が私を呼んで居る、あなたはそばで子守唄を
うたつて居る、しづかなしづかな夢みる東京麻布高台の小春日に
私の涙はきりもなく流れてやまなかつた、松のみどり葉と笹の葉が
わけもなく私の新らしい涙をいざなふ、
私はあんな快い、そして哀しい思いをしたことは今迄に一度もない、
私は哀傷にほとんどたえられなくなつた、心中ひそかに、
あなたが私のそばに立寄れんことを怖れて居ました、若し椅子のそばに
あなたが来られたならば私の哀傷はあなたの手を涙に汚して醜い絶叫と
変じたに相違ありません、

(中略)

祖父さんのとめるのを無理にふり切つても、あの晩はあなたに逢はずには
居られなかつた、その日以来、あなたはほんとうの私の恋人になつてしまひました、

(後略)

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この時に書いたと思われる未発表詩です。
アフタヌーン掲載時の二話に一部引用してあったものです(単行本では変更されています)

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「室生犀星に」『萩原朔太郎全集 第三巻』

室生犀星に
   ー十月十八日、某所にてー

ああ遠き室生犀星よ
ちかまにありてもさびしきものを
肉親をこえてしんじつなる我の兄
君はいんらんの賤民貴族
魚と人との私生児
人間どもの玉座より
われつねに合掌し
いまも尚きのふの如く日日に十銭の酒代をあたふ
遠きにあればいやさらに
恋着日日になみだを流す
涙を流す東京麻布の午後の高台
たかぶる怒りをいたはりたまふえらんだの椅子に泣きもたれ
この遠き天景の魚鳥をこえ
狂気の如くおん身のうへに愛着す
ああわれ都におとづれて
かくしも痴愚とはなりはてしか
いちねん光る松のうら葉に
うすきみどりのいろ香をとぎ
涙ながれてはてもなし
ひとみをあげてみわたせば
めぐるみ空に雀なき
犀星のくびとびめぐり
めぐるみ空に雀なき
犀星のくびとびめぐり
涙とどむる由もなき
涙とどむる由もなき。

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この時期の朔太郎の書簡は詩の草稿のような状態になっているものが多くて
(奔狂の恋魚とか光る天景とか…後から詩で使うようなキーワードが)
そこに着目すると、詩の形成過程を探るうえで面白いです。
おそらくは白秋宛ての手紙を書いた後で「室生犀星に」を書いたんだろうと。
草稿と発表詩の違いとか、初出と詩集収録時の違いとか
言葉が磨かれる過程ー創作の秘密が覗けてしまうのが全集の醍醐味ですよね!

しかし白秋がこの手紙を保存しておいてくれてよかったなあとつくづく思います。
この時期の犀星宛のものはほとんど残っていないだけに。
書簡を整理し『若き日の欲情』(角川書店、1949)にまとめた木俣修氏は「編纂餘語」の中であれほどよく
転居した白秋がこれだけの書簡を保存していたことは驚異と述べておられ、
伊藤信吉氏は『萩原朔太郎 Ⅰ浪漫的に』(北洋社、1976)の中で
大正三年以前の朔太郎の白秋宛て書簡が残っていないことから
最初のあいだは届いた手紙を捨てていたのが、
ある時から書簡にあふれる浪漫的情熱を感じ、行李へ投げ込んで取っておいたのではないかと推測しています。

朔太郎がこのように詩情が爆発したような手紙を書いていたのはこの時期だけだと…書簡を通して読むと感じます。
(全集補巻収録の萩原栄次氏宛も良いです)
その点からも、この時期の書簡は詩の前段階のノートとしても価値があるように思います。


全く関係ありませんが
5話の扉絵の没ラフがありました。
当初のイメージでは白さんが椅子に座っていてまわりにガールズという感じだったようです
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